学短信 -Nr.6- (2003.12.22)

クリスマスを前に(撮影:糸井さん)

12月某日
 ニュルンベルク近郊にある小さな村へ。レーゲンスブルクからは、アウトバーンを 使って約一時間の距離だ。その村では、アドベント(待降節)のこの時期、夜ともな ると、今日はこの家、明日はあの家というように、ある一軒の家に村の人びとが集 まって、温かいものを飲んだり、お喋りしたりするのだという。
 今日の当番の家では、ガレージにくるみ割り人形とランプを並べてクリスマス用に 飾りつけ、その前にグリューワインの入った大鍋を置いていた。折りしも吹雪。帽子 をすっぽりとかぶり、上着を着込んだ人びとが集まってきては、グリューワインのマ グカップを受け取ってゆく。湯気の立つグリューワインもあっという間に冷たくなる 寒さの中、大人たちは、互いによく知った誰かの近況だとか、今日の出来事だとか、 何でもないお喋り。子どもたちは元気に雪球づくり。後から後から降ってくる雪の向 こうに、家々の灯りがまばらに霞む。
 ドイツの冬は、寒く、長く、そして暗い。最近では四時ともなると日が暮れる。灯 りをともし、親しい人たちと温かいものを囲むことが、そうした季節の楽しみなのだ と側にいた人が教えてくれた。その灯りを頼りに冬を過ごし、やがて来る春を待つの だ。
 ひとしきり話したあとは、皆それぞれの家に戻ってゆく。自分たちも、招待してく れたお宅の居間にて歓談のつづき。もうすぐ2歳になる小さな男の子が、しきりに 「Frau Holle(フラウ・ホレ)」と言っている。「ホレさん」とは誰かと尋ねると、 グリム童話にもある「ホレおばさん」のことだった。ホレおばさんが羽布団を叩く と、その羽ぼこりが雪になるというもので、ドイツでは今でも雪が降ると「ホレおば さんがベットを直している」と言うとのこと。窓の外は依然として雪。ホレおばさん も今晩はずいぶん張り切っているらしい。

12月某日 
   もうすぐクリスマス休暇ということで、バスの中、大学構内、中央駅と、帰省すべ く大きな荷物を持った学生ばかり。寮もすっかり静かになった。
 クリスマスカードを投函しようと郵便局前のポストへ立ち寄ると、満杯。差し入れ 口から封筒が溢れ出しそうになっている。後からやってきた人も「信じられない」と ひと言。おそらく、そのほとんどがクリスマスカードだ。24日前に届くタイムリ ミットということで、皆あせって投函したに違いない。自分もその中のひとり。



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