学短信 -Nr.20 (2004.7.26)

レーゲンスブルク市庁舎時計台(撮影:糸井さん)

7月某日
 カトリンとフローリアンの結婚式へ出席すべく、週末、パッサウへ。今回はSynek さんのお宅にお世話になったのだが、息子のシュテファンが青少年スポーツ交流団の 一員としてもうすぐ秋田へ向かうということで、自然と、秋田の話、日本の話とな る。スザンナさん、カールさん夫妻も、二年前に日本へ行ったときの写真を持ち出し ては、いろいろと説明している。シュテファンを除くSynek一家、それにカトリンや フローリアンたちが秋田を訪れた夏から、もう二年も経つのか。
 土曜日、最後の説明会があるということで、ちょうど終わった頃に会場をのぞいて みると、前回も団長だったZieglerさんがおり(真っ赤なTシャツ姿だった)、挨拶 することができた。シュテファンいわく「とにかく説明が細かい」Zieglerさんは、 今回、家族全員で日本へ向かう。参加者はダンスや歌など、みっちりと仕込まれたら しいが、秋田にて見ることができないのが残念。

 結婚式へはSynek家代表のマリアとふたりして向かう。会場はドナウのほとり、丘 の上に建つオーバーハウスの中のカフェである。今回、ふたりは教会での式は挙げ ず、役所で入籍だけをし、あとは小さなパーティーという形を選んだ。集まったの は、ふたりの家族、親族、親しい友人たち、合わせて50人ほど。外に設営されたテ ントの中に長いテーブルがいくつか並べられ、それぞれ、手作りというハート型の素 焼きの名札が置かれた席に着く。
 司会進行も来賓挨拶もゲームも何もなく、いわゆる「結婚式」を思わせるものとい えば、フローリアンのお母さんが焼いたケーキにふたりでナイフを入れたことと、カ トリンのお父さんのスピーチくらいか。それに、ドイツでは一般的だという「結婚新 聞」が配られる。表紙にはつい最近のものと思われるふたりの写真、中には小さい頃 のふたりの写真に、「指名手配書」と題して、それぞれの外見の特徴、性格、よく出 没する場所、趣味などが書かれ、ふたりの馴れ初めを詠んだ詩まである(ちゃんと韻 もふんでいる)。これもまた手作りだ。
 テントの側に設営された舞台にて、フローリアンの所属するバンドの演奏もあり。 けれども、皆が手を止めてそれ聴き入るというわけではなく、それぞれ好きにその時 間を楽しんでいる。聴きたい人は聴く、話したい人は話す、散歩したい人は散歩す る、連れられてきた犬はテーブルの下でおとなしく寝そべっている。野外だったこと もあり、通りかかる人たちが、何だろうという感じでテントを覗きこんでゆく。そう した中のひとりに、新郎と新婦はどこかと聞かれたが、そのとき、黒シャツにオレン ジのネクタイ姿の新郎はといえば舞台の上でキーボードを弾き、新婦は白地に大きな 赤い花が散らばったドレスから普段着に着替えて戻ってきたばかりのところであっ た。
 あとでマリアのお母さんから聞いたところによると、ここまでくだけたパーティー はドイツでも珍しいということだったが、ほんとうに親しい人たちからの、ふたりに 対する「おめでとう」という気持ちに満ち満ちた、よい式だった。
 午後七時から始まったパーティー、マリアと自分とは午前一時を過ぎたところで抜 け出してきたが、「たぶん朝までつづくと思う」とフローリアンは言っていた。帰国 前に必ずもう一度パッサウを訪ねると約束したあとで、改めてお祝いを言いながら、 そのときになって、急にじんときた(おめでとうの気持ちや感謝や感傷が一気にやっ てきたのだと思う)。この一年、ふたりにどれだけ支えられていたか分からない。  帰り道、マリアの運転するスクーターの後ろに乗ってオーバーハウスからの坂道を 下る。音楽がだんだん遠くなる。少し湿った風に、夏草の匂いが混じっている。やが て眼下にドナウが、そして一面に橙色の灯りが広がる。あれがパッサウだ。

 *結婚式の写真をぜひとも載せたいところですが、残念ながら撮影できなかったた め、今回もレーゲンスブルクの写真でお許しください。


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